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大阪高等裁判所 昭和44年(く)80号 決定 1969年10月30日

少年 D・N(昭二五・七・一一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、附添人樺島正法、同松本健男共同作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

よつて按ずるに、神戸家庭裁判所が昭和四四年九月一〇日本件少年に対し所論の如き観護措置の決定をしたことは記録により明らかである。ところで、所論は本件少年は真面目で責任感があり、その住居も定まり、罪証隠滅のおそれもないから、右決定はただ懲戒目的のものとしか考えられず、少年の人権を全く無視した不当違法のものであるから、これが取消しを求めるというのである。しかし、現行少年法上抗告の許されるのは、保護処分決定、すなわち同法二四条一項所定の各処分に対してのみであつて(少年法三二条)、それ以外の決定に対しては原則として許されないものと解する。しかるに所論は、少年に対する観護措置決定の如きは、人身の自由を著しく剥奪するものであるから、これに対し抗告が許されないとの解釈は、憲法の精神に反する旨主張する。なるほど観護措置決定が人身の自由を拘束するものであることはまことに所論のとおりであるが、少年法三二条が保護処分決定に対し抗告を許しているにもかかわらず、観護措置決定に対し抗告できる旨を規定していないのは、それが刑事事件における勾留とは異なり、単に逃亡・罪証隠滅の防止等を目的とするものではなく、それは家庭裁判所が少年の非行事件に付き調査、審判を行い、殊に少年の性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うには、少年の資質の鑑別を必要とし、これがためには一定期間少年を少年鑑別所に収容してその生活態度を観察しなければならない少年法の要請に基づくものであるからである。そうして、かかる措置が当然人身の自由の拘束を伴うことを慮り、少年法は、これを家庭裁判所の決定によるものとして司法的抑制の下に置き、その収容期間を決定し(同法一七条一、三、六項)、またその収容中の処遇についても教育的配慮を払つているのである。(少年鑑別所処遇規則二、三条)。従つて、右の如き調査や審判、或は保護処分の前提手続ともいうべき観護措置の段階において所論の如き不服方法を認めることは、少年法の目的趣旨に照らし必ずしも相当である、とはいえない。結局観護措置は、少年自身の福祉のためになされるのがその本旨であつて、憲法の原則の下で少年法が特に認めた司法的、保護的な措置であり、これに対する抗告は同法の是認しておらないものであると解するを相当とする(なお、記録によると本件抗告の対象となつた観護措置決定は、既に本件抗告申立当時取消されていることが明らかであるから、本件抗告はこの点よりもその実益を失い、不適法のものである)。論旨は理由がない。

よつて本件抗告申立はこれを棄却すべきものとし、少年法三三条一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西尾貢一 裁判官 瓦谷末雄 薮田康雄)

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